
もったいないような、あるべき姿に戻ったような......。なんとも言えない、ある意味では贅沢なコンバートに感じられた。
2年生ながら星稜(石川)の4番・遊撃手として、今夏の甲子園準優勝に貢献した内山壮真。秋の新チームになると、捕手に転向した。
もともと星稜中3年時は捕手を守っていた。星稜高校に入学すると1学年上に強肩捕手の山瀬慎之助がおり、内山は1年春から遊撃手として起用された。今夏に山瀬が引退して、再び内山がマスクを被ることになったのだ。
内山は身長172センチ、体重70キロと小兵の部類に入るが、空手経験者で力の伝え方がうまく、 高校通算26本塁打(9月26日現在)と長打力もある。来年のドラフト候補になる有望選手だ。

遊撃手としても年々技術が向上していただけに、惜しくも感じられる。内山本人に聞いてみると、複雑な心情が読み取れる苦笑を浮かべた。
「甲子園にも慣れて、本当にやっとショートがうまくなってきたので、あと1年やってみたい思いもありました。でも今は、キャッチャーもショートもどっちもやりたいと思っています」
遊撃手への未練がある一方で、捕手への愛着も強い。内山は「試合をつくるのはバッテリーですし、勝敗にかかわる緊張感を感じます」とやりがいを感じている。
星稜の捕手といえば、山瀬のイメージがすっかり定着している。低い軌道から、猛烈なスピードで二塁ベースに到達する送球は、まさに「鉄砲肩」と呼ぶにふさわしい。これまで内山は、遊撃手として山瀬の二塁送球を受け続け、その恐ろしさを味わってきた。内山はきっぱりと、「次元が違います」とうなった。
「ベース上にドンピシャできますし、強さが自分と比べようがないくらいですから。あらためてすごいなと感じています」
内山には、山瀬ほど圧倒する肩の強さがあるわけではない。だが、試合中のスローイングを見ていると、遊撃手が二塁ベース上で併殺を奪いにいくようなスムーズなボールの握り換えを見せている。そんな印象を内山に伝えると、神妙な表情で「そこは課題なんです」と言った。
「ショートでのステップに慣れてしまったので、どうしてもその場でステップして投げてしまうんです。もっと前足に体重を乗せて投げたほうが強さは出ますし、コントロールも安定すると思います」
今年の4月上旬に開かれた侍ジャパンU-18代表候補合宿には、奥川恭伸や山瀬とともに内山も招集された。その際、首脳陣から突然「キャッチャーをできるか?」と聞かれ、急遽紅白戦でマスクを被ることになった。
「それまで練習もしていなかったので準備に不安はありましたけど、河野(佳/広陵)さんと組ませてもらって大きなミスなくやれたのでよかったです。ブルペンでもいろんなピッチャーのボールを受けさせてもらって勉強になりました。日本代表候補になるピッチャーはコントロールが全然違います。ストレートは低めにきれいな回転でくるし、変化球も大きくブレることがない。これが代表クラスなんだなと感じました」
現在バッテリーを組むのは、1年時から経験を積んできた荻原吟哉、寺西成騎の両右腕が中心になる。内山を含め3人とも2年前の侍ジャパンU-15代表メンバー(U15アジア選手権)のエリートだ。とくに高い潜在能力を秘めながら、なかなか殻を破れずにいる寺西が大化けするか否かで、チームの命運は変わってくる。寺西自身の奮起はもちろん、リードする内山の手腕も問われるだろう。
そして、捕手・内山をもっとも高く評価しているのは、星稜の林和成監督なのかもしれない。林監督は「私はショートよりキャッチャーの適性があると思っています」と断言した。
「内山が高校に入学した最初の頃から、『内山はキャッチャーだ』と言っていました。山瀬がいたのでチーム事情でショートをやっていましたが、本人とは何度かミーティングして新チームからキャッチャーをやることは話していました」
林監督が考える、捕手・内山の優れている点はどこかを聞くと、淀みなく称賛の言葉が続いた。
「山瀬ほどの肩ではないですが、捕ってからの速さとコントロールで十分補えていますし、キャッチングはピカイチだし、インサイドワークも絶妙。状況判断にも優れています。総合的に高いレベルにあるので、キャッチャーとして全国トップクラスでしょう」
林監督の言葉からは、内山が捕手として必要なものすべてを持っているという自信と信頼がうかがえた。
それでも、内山に慢心はない。代表合宿では山瀬以外にも藤田健斗(中京学院大中京)、東妻純平(智弁和歌山)らレベルの高い捕手を見てきたからだ。
「ほかのキャッチャーに比べると、自分は肩の強さもキャッチングも配球の工夫も足りないと感じます」
まだ2年秋の公式戦を戦っている段階だが、自身の進路については「高卒ですぐにプロにいきたい」とはっきりと強いプロ志望を口にする。
1年後に内山がスカウト陣に評価されているのは捕手としてなのか、遊撃手としてなのか。それとも両方なのか。そのことを想像するだけでも今から1年後が楽しみだ。